特別講演

6月30日(日)15:00-16:30

「心拍数の観察と分析、そして応用」
早野順一郎 先生
(名古屋市立大学大学院医学研究科)

  連続的に測定が可能な生体信号として心拍数は最もよく知られた指標である。心拍数の研究史は紀元前300年まで遡り、心拍数が人にとって常に興味の対象であったことが示唆される。「心臓」という臓器の名称はどの言語でも「こころ」を意味することから、興味の背景には、心拍数には身体活動だけでなく情動反応が鮮明に反映されることがあるのだろう。演者もそのような心拍数に興味を持ち、心拍数を研究テーマとして選んだ研究者のひとりである。演者が心拍数の研究を始めたのは1980年代初頭で、1ページ30秒の記録紙にインクで描かれた睡眠ポリグラフの心電図から肉眼で一晩の全心拍数(R波)を数えることが最初の研究活動であった。それが膨大な作業であったことも手伝って、そこから心拍数の睡眠ステージによる変化や概日リズムによる変化が明瞭に描出されることに感動を覚えた。当時は心拍変動という用語も普及していなかったが、その後のパーソナルコンピュータの普及により心電図のデジタル変換やR波検出、スペクトル解析プログラムの作成が可能になり、心拍数の詳細な観察と心拍変動としての分析手段を飛躍的にパワーアップする機会に恵まれた。演者は、それらの手段の開発を通じて、心拍変動と自律神経活動との間の定量的関係、心拍変動の主要成分である呼吸性洞性不整脈の生物学的意義の発見、心拍変動による循環器疾患の予後予測、心房細動時の自律神経機能評価法の開発、心拍変動による睡眠時無呼吸の検出と予後指標の発見、心拍変動のビッグデータ解析など様々な研究に携わることができた。しかし、現在も含めて演者の心拍数の研究の動機は、最初の睡眠ポリグラフの研究から得た、心拍数の観察と分析によって初めて見えてくる「世界」があることへの興味とそのパラダイムへの確信である。講演では、個々の研究のきっかけや解決手段の開発の経緯などについて演者の具体的な経験をお話ししたい。